銀座の和食店「奏」リポート

日本を代表するソムリエの一人で、シャンパーニュバー「ヴィオニス」やワインビストロ「東京葡萄酒店」などの経営も手がける阿部誠さん。彼が銀座に和食店をオープンするということで、ワインアンドフードラボではオープンしたてのお店にさっそくお邪魔してきた。

 

阿部さんは、2002年の全日本最優秀ソムリエコンクールで優勝。その後、当時勤務していたホテルから独立し、銀座に「シャンパーニュサロンヴィオニス」をオープンした 。その当時はシャンパーニュ専門などといったワインバーはどこにもないなか、日本人のシャンパン好きという嗜好をとらえたことは、今やシャンパーニュ専門のワインバーはいたるところにあるところから鑑みれば、先見の明があったとしか言いようがない。その阿部さんが、和食店をオープンするというのだから、どんなサプライズを提供してくれるのか、期待は膨らむばかりだった。

 

店名は「奏」。「かなで」と読み、和食とシャンパーニュの融合の織りなすハーモニーという意味を込めたという。 ワインは基本的にシャンパーニュのみというから、阿部さんらしいコンセプトだ。

 

店内はカウンター10席のみ。それでも店内奥の鏡の効果で、どこまでも続くような錯覚がある。まるで豪華列車のバーにでもいるようなカウンターで供されるのは、基本的にコース仕立てだ(21時まで。それ以降はアラカルトもある)。料理に合わせて阿部さんが選びに選んだシャンパーニュをグラスで提供するという趣向。阿部さんが演出する上質なマリアージュ体験、とでも言おうか。

 

「和食にワインを合わせるのはすごく簡単のようで難しいのです。和食に無理にワインに合わせると、料理の調和を崩す。和食の調和の世界にワインを合わせるとなるとシャンパーニュが断然相性がいいのです」と、シャンパーニュにこだわった理由を阿部さんは話す。シャンパーニュのバリエーションは。実は多様だ。ブランドブランやブランドノワール、ブレンド比率の違いや生産地区のブドウの特徴、造り手の個性、ドサージュのバランス、熟成の度合い……。こうした無数の多様性・可能性があるシャンパーニュを、和食にピンポイントに合わせる楽しさがある。そして、それを可能にするのは、日本一といっても過言ではない阿部さんの、シャンパーニュへの深い造詣と愛情だ。「メニューに使う食材や調理方法はもちろんのこと、香り付けや食感、旨味の種類などを見極めて、この料理に最適なシャンパーニュは何かを決めていきます」(阿部さん)

 

「隠し味にあるものが入っています。なんだと思いますか?」。この日の先付け、「朝取りしらこ筍のすり流し」を供しながら、ソムリエを務める佐藤麻衣さんが問いかけてきた。筍の甘みの背後から追いかけるようにやってくる、独特の酸味。「シャンパーニュですね?」というと、「はい」と佐藤さんは頷いた。また、「白貝の桜蒸し 新生姜とともに」は、当初、白貝ではなく蛤を使う予定だったという。「どうしても蛤がシャンパーニュと合わなくて。それが不思議と、白貝であれば大丈夫。そこに1枚生姜をはさむことで、よりいっそうシャンパーニュとの相性がよくなりました」(佐藤さん)。このように、1つの料理、シャンパーニュとのマリアージュを、繰り返し料理人と試食をして完成させる。

 

ほかの魅力を3つほど。1つは、カウンターならではのよさ。前で書いたように、ソムリエ自ら料理とシャンパーニュのマリアージュについて、楽しく語ってくれること。2つ目は、料理と合わせて供されるグラスシャンパーニュのラインアップがすごい。この日は、ドゥラモット・ブランドブラン・ミレジメ2000とパイパー・エドシック・ブリュット・ヴィンテージ2006など。これらをいちどきに飲める贅沢はそうない。そして、最後は器だ。阿部さん自ら、日本やフランスを探して歩いたこだわりの器が揃う。シャンパーニュグラスを受ける皿は、リモージュから買い付けたもの。金色に光る皿の模様をグラスごしに覗き込むと、シャンパーニュの泡が沸き立つような、幸せな感覚を呼び起こしてくれるのだ。

 

コースは1つだけだが、その中身は短期間で変わる。「日本の風土はとても豊かで、四季の移ろいよりもずっと短期間で変化する。それを感じて欲しい」(阿部さん)といい、1年を24に区切る二十四節気に合わせて提供することも考えている。この店は、きっと何度訪れても飽きない。そして、日本と欧州の伝統を紡ぎ合わせたマリアージュは、国籍を問わず楽しめるに違いない。

 

東京都中央区銀座7-3-14 月光ビル2F 東京メトロ「銀座駅」JR「新橋駅」から徒歩5分

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