3月8日ジャンシス・ロビンソンMWのランチョンイベントに参加して

3月8日、表参道「バンブー」にて、世界最高峰と言われるワインジャーナリスト、ジャンシス・ロビンソン氏の来日を記念して、ランチョンセミナーが開催された。主催はワインの代表的な教育機関の1つ、アカデミー・デュ・ヴァン。同氏は2010から、同校の最高顧問も務める。

 

昨年、MW(マスター・オブ・ワイン、ワイン業界での最高位の認定)を、日本在住かつ日本国籍で初めて大橋健一氏が獲得したこともあって、ワイン愛好家の中でもMWの取得の難関さと権威の高さは広く認知された。その中にあって、1984年にジャーナリストとして初めての認定を果たしたジャンシス・ロビンソン氏の来日は、ワイン業界関係者はもちろん、ワイン愛好家たちの興味をも引くものだった。

 

当日饗されたのは、日本の春を感じさせるコース仕立てのフレンチに、彼女がセレクトした4本の秀逸なワイン。それらをブラインドテイスティングで楽しみ、その後、彼女自らテイスティングコメントを披露した。

 

 

テイスティングしたワインは以下のとおり

2004 Vertus Premier Cru,Pascal Doquet

2013 Flowers Sonoma Coast Chardonnay

2009 Cuvee Misawa Red Ridge System,Grace Winery

2008 Blue Label 5 Puttonyos Asuzu,Royal Tokaji

 

 

私にとって特に印象的だったワインは、2009 Cuvee Misawa Red Ridge System,Grace Winery。当日はワインの造り手でもあるグレイスワイナリーから、醸造家である三澤彩奈さんも出席し、グレートヴィンテージ情報の解説とカベルネフランの単一品種にこだわった経緯が語られた。ロビンソン氏は、「日本でもこのような素晴らしいカベルネフランができる。ラブリーな香りとバランスの良さは特筆すべきもので、まだ日本ワインを知らない世界のワイン愛好家に是非飲んでもらいたい」とコメント。さらに世界各国で醸造やワイン造りを学んだ三澤さんの経験の賜物である、と最大の賛辞を送った。

 

また、会の途中、ロビンソン氏の経歴やこれまで出版したワイン本についてなどを、ユニークな質問を交えながら説明してくださった。私にとってとても興味深かったのは、過去40年ちかくにわたるロビンソン氏のワインジャーナリスト人生の中で、今ほどワインの世界の急激な変化を実感したことはないということだ。私たちから見れば、ワインの世界は成熟しており、変化は緩やかなもの、という印象である。しかし、ロビンソン氏は「消費者のニーズや多様性の表現という視点で見てみなさい」と言った。「すると、ワインの世界がいかに急激に進化しているかがわかるから」。

 

その証左として、彼女の著作である 『The Oxford Companion to Wine,4th edition』は前回からの改定を早め、改訂にあたっては新たに300以上の追加項目を網羅したという。その中から、主だったキーワードが挙げられた。ここでは私が書き止められることができたキーワードのみ紹介する。解説はぜひ、ロビンソン氏の本を参照していただきたい。

ワインアプリ、コンクリート、ワインファンド、SNS、フォース、ソーヴィニヨン・グリ、スモークドティン、サスティーナビリティ、レディ・バグ、マイクロビオテロワール、アーバンワイナリー、ヴァンダリズム、ペティアンナチュラル、ミネラリティ、オプティカルソーティングマシン、プロマチュアルオキシデーション、ヴァンドフランス

 

また、同氏は直近の著書『The 24-hour Wine Expert』について、エピソードも披露した。「初心者でもわかる」をコンセプトに、24歳のご自身の娘さんにワインを知ってもらい、楽しんでもらえるものにしたいと考え、娘さんの友だちを集めて「ワインの何がわからないのか」をリサーチして、それをまとめ上げたとのこと。

 

ワインのプロだからこそ、知れば知るほどワインを難しく考え、マニアックな方向に走りがちなワイン業界。しかし、ロビンソン氏が言うように消費者のニーズは急激に変化し、日本のマーケットでもワイン初心者たちへと裾野が広がっている状況である。「ワインをわかりやすく楽しんでもらえる、というテーマを常に念頭に置く」。ジャンシス・ロビンソン氏というワインジャーナリストの最高峰から、あらためてワインに携わるものとして欠かせない基盤のようなものを学んだ1日だった。